イーサリアム(ETH)の概要
分散型アプリケーションを構築できる世界初のプラットフォーム
イーサリアムは、分散型アプリケーション(DApps)を構築するための世界初のプラットフォームです。
ビットコインは通貨の取引しかできないのに対して、イーサリアムは通貨の取引だけでなく、ブロックチェーンに独自のアプリケーションを組み込めるようになっています。
世界中のノードを使った広大な分散型コンピューターのように振る舞うため、イーサリアムはワールドコンピューターとも呼ばれています。
イーサリアムを考案したのはロシア系カナダ人のヴィタリック・ブテリン氏です。2013年、当時19歳という若さでした。
その後、8名の人物によってイーサリアム財団が創設されました。その中には、ポルカドット(DOT)を開発したギャビン・ウッド氏、カルダノ(ADA)の生みの親であるチャールズ・ホスキンソン氏、ウォレットアプリ「Jaxx」を提供するDecentral社を立ち上げたアンソニー・ディ・アイオリオ氏等、錚々たる顔ぶれが含まれています。
2014/6にスイスで設立された非営利組織であるイーサリアム財団は、同年7月にイーサをビットコインと交換する形で資金調達するICO(Initial Coin Offering)を行っています(こちら参照)。
その後、プルーフ・オブ・ワーク(PoW)によるマイニングでETHを発行するようになりました。
なお、イーサリアムという言葉は、厳密にはプラットフォームのことを指しており、通貨の名前ではありません。通貨の正式名はイーサです。しかし、これらを使い分けずにどちらも「イーサリアム」と呼ぶ方が多いです。
いずれビットコインを追い抜くかもしれない
イーサリアムはビットコインに次いで第2位の時価総額を誇っています。
アルトコインの中ではナンバーワンの存在であり、ビットコインだけでなくイーサリアムも基軸通貨にする取引所が増えてきました。
ゴールドマン・サックスによれば、イーサリアムの価値はいずれビットコインを抜くだろうとForbesの記事で説明しています。
他にも複数の専門家がForbesの記事で同様の分析を行っています。
ビットコインを追い抜ける可能性のある唯一の暗号資産(仮想通貨)と言えるでしょう。
イーサリアム(ETH)早見表
名称 | イーサリアム(Ethereum) |
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ティッカーシンボル | ETH |
通貨の最小単位 | 1 wei = 0.000000000000000001 ETH |
メインネット開始年月 | 2015/7 |
主な用途 | ETH:分散型アプリケーション(DApps)のトランザクション手数料の支払い ETH 2.0 :上記に加えて、ステーキング |
考案者 | ヴィタリック・ブテリン氏 |
発行者 | イーサリアム財団(ICO時のみ) |
発行方法 | ETH:ICOで配布後はマイニング(半減期なし) ETH 2.0:ステーキング |
発行上限 | なし(EIP-1559でバーンが実装され、総量は減少傾向に) |
トランザクション速度 | ETH:25 TPS(1秒あたりのトランザクション数) ETH 2.0:100,000 TPS(予定) ※VISAは1,700 TPS |
コンセンサスアルゴリズム | ETH:プルーフ・オブ・ワーク(PoW) ETH 2.0:プルーフ・オブ・ステーク(PoS) |
ファイナリティの種類 | ETH:確率的ファイナリティ(決済が覆される可能性が0にならない) ETH 2.0:決定論的ファイナリティ(決済が確定し、覆されることがない) |
残高管理 | アカウントモデル |
Webサイト | https://ethereum.org/ja/ |
ホワイトペーパー | https://ethereum.org/ja/whitepaper/ |
エクスプローラー | https://etherscan.io/ |
イーサリアム(ETH)の特徴
分散型アプリケーション(DApps)を作れる
イーサリアムのブロックチェーンの中には、基本的な取引内容「いつ、誰が、誰に、いくら支払った」に加えて、一連の手続き(プログラム)を記述・実行できる機能が実装されています。
この機能をスマートコントラクトと呼びます。
スマートコントラクトはSolidityという独自のプログラミング言語で記述して実行します。
スマートコントラクトの登場により、中央集権的な第三者を介さずとも改ざん不可能な契約(コントラクト)を結び、履行できるようになりました。
イーサリアムのプラットフォーム上で動くアプリケーション(特に金融分野)が次々と生まれたことで、強大なエコシステムを実現し、イーサリアムはアルトコインの中でNo.1の存在であり続けています。
DAppsの例は枚挙にいとまがありません。有名どころの一部をご紹介します。
- Uniswap(UNI):分散型取引所(DEX:Decentralized EXchange)
- Compound(COMP):レンディング(貸借)プラットフォーム
- dYdX(DYDX):分散型デリバティブ取引所
- Axie Infinity(AXS):ブロックチェーンゲーム
- Opensea:NFT(Non-Fungible Token)プラットフォーム
ERC20トークンを自由に発行できる
UNIやCOMPなどの暗号資産はERC20トークンと呼ばれます。
ERC20トークンとは、Ethereum Request for Comments: Token Standard #20の略で、その名の通り、ERC20という規格に基づいて作成されたトークン(資産やユーティリティの総称)になります。
イーサリアムの規格で作られますので、イーサリアムのネットワークでやり取りが可能です。
また、同じ規格を使うことで、1つのアプリケーションで複数のERC20トークンを扱えるようになり、大変便利です。
このERC20規格を使うことで、イーサリアム上で独自コインを簡単に発行できるようになり、ICOブームが起きました。
インフレ資産からデフレ資産へ
イーサリアムは当初、発行上限を設けない暗号資産でした。
つまり、ETHの発行量は年々増えていく設計”だった”ということです。
法定通貨同様、通貨の発行量が増えると、インフレが起きて価値(購買力)が低下する傾向があります。
イーサリアムではビットコイン同様、コミュニティにて改善提案を行える運営がされており、イーサリアム改善提案:EIP-***(****には管理番号が入る)という形式で管理されています。
EIP-1559にはトランザクション手数料を焼却してこの世から消失させるバーン機能が含まれており、2021/8の大型アップグレード「London」で実装されました。
バーン量>新規発行量である限り、イーサリアムの総発行量は減り続けることになります。
これによって、イーサリアムはインフレ型資産からデフレ型資産に変貌しつつあります。
ETHからETH 2.0へ
イーサリアムは以下の4つの段階にもとづいて開発が進められており、既に最終段階のセレニティ(Serenity)に入っています。
- 第1段階:フロンティア(Frontier)
- 第2段階:ホームステッド(Homestead)
- 第3段階:メトロポリス(Metropolis)
- 最終段階:セレニティ(Serenity)←今ここ
イーサリアム ロードマップ
イーサリアムのコンセンサスアルゴリズムは2021/12時点ではプルーフ・オブ・ワーク(PoW)ですが、当初からよりスケーラブルでエネルギーコストの低いプルーフ・オブ・ステーク(PoS)への移行が計画されていました。
PoSとは、そのブロックチェーンのネイティブ通貨をステーク(定期預金のように一定期間預ける行為)することで、取引の承認を行うコンセンサスアルゴリズムのことです。
セレニティはPoSへの移行段階で、通称「イーサリアム 2.0 (ETH 2.0)」と呼ばれています。
順調にプロジェクトが進めば、2022年中にPoSへの移行が完了する予定ですが、これまで何度もプロジェクトの遅延があったため、予定通りに進むかどうかは不透明な状態です。
詳しくはETH 2.0に関する公式ページをご覧ください。
トランザクション手数料のガス(Gas)
スマートコントラクトは故意にあるいは不具合等で際限なく実行されてしまうと、イーサリアムのプラットフォームが最悪停止することになってしまいます。
それを回避するために、スマートコントラクト内の全ての計算にはトランザクション手数料が発生するようになっています。その手数料のことをガス(Gas)と呼びます。
「ガス代が高いな~」といった発言をどこかで見聞きしたことがあるかもしれませんが、そのガスのことです。
ガスの単位はgweiで、1 gwei = 1,000,000,000 wei = 0.000000001 ETH です。
トランザクション作成者は事前に、ガス価格とガスリミットを設定する必要があります。ガスリミットとは使用してもよいガスの上限量のことです。
トランザクションを送信するために支払う意思のあるガス代は、以下の計算で求めることができます。
これまでガス価格はオークション制で高いほど優先して処理される仕組みだったため、予測が難しく価格が高騰する問題がありました。
それを改善するために、EIP-1559で、ガス価格のメカニズムとガス代の行き先が変更になりました。
まず、ガス価格はオークションではなく固定価格になりました。固定価格といっても3つの要素から成り立ちます。
- 基本料金(Base Fee)
- チップ(Priority Fee)
- 最大額(Max Fee)
①はトランザクションを送信するために必要な最低限の料金です。同じブロック内では固定ですが、次のブロックになると混雑具合で変動します。トランザクションが混んでくると高くなり、減ってくると安くなります。
②は優先度を上げてもらうためのチップです。任意です。
ガス価格は①+②になります。
③はトランザクションを送信するために支払える最大額です。最大額③と実際の料金① + ②の差額はおつりとして返金されます。
次にガス代の行き先についてです。
EIP-1559実装前までは、ガス代全額がマイナーの報酬になっていました。
しかし、EIP-1559実装後は、①はバーン(焼却)されてこの世界から消えてなくなり、②のみがマイナーの報酬となります。
ここで、ガス代の計算例を1つ。
NoriがRinoに1.0 ETHを支払うとします。この取引のガスリミットは21,000、①基本料金は100 gwei、②チップは10 gweiとします。
この時、ガス代は21,000 × (100 + 10) = 2,310,000 gwei = 0.00231 ETHとなります。
送金すると、1.00231 ETHがNoriの口座から差し引かれます。
Rinoには1.0 ETHが届きます。マイナーは0.00021 ETHのチップを受け取り、0.0021 ETHの基本料金は燃やされます。
この計算例から分かる通り、もし残高が1.0 ETHしかなかった場合、ガス代の分だけ資金が不足してしまい、トランザクションは失敗に終わります。
トランザクションが失敗しても支払ったガス代は返ってきません。ウォレットから送金する場合は、余裕をもった金額をウォレットに入金しておきましょう。
さてはガス代、ケチったでしょ?
イーサリアム(ETH)の課題
スケーラビリティ問題
イーサリアムは、ビットコインに次ぐ時価総額2位の暗号資産です。
スマートコントラクトのプラットフォームとしては、初代ということもあり実績No. 1です。
そのため、ビットコインと同じようにネットワークが混雑して送信速度が遅くなるスケーラビリティ問題を抱えています。
大体いつも混雑しているため、ガス代も高くなりがちです。残念ながらトランザクション手数料は数千円~数万円が相場になっています。
ETH 2.0はコンセンサスアルゴリズムの変更だけでなくアーキテクチャも見直され、スケーラビリティ問題は大幅に改善される見通しです。
The DAO事件とハードフォーク
2016/6に自律分散型組織(DAO)の確立のために集めた資金をハッカーに盗まれる事件が発生しました。
The DAOのICOの脆弱性を狙われたもので、「The DAO事件」と言います。
ハッキングによって盗まれた被害額はなんと当時のレートで50数億円(約360万ETH)にものぼりました。
幸いなことに、最低27日間は移動できない仕組みになっていたため、その間に議論が行われ、イーサリアム財団はハッカーの犯行をブロックチェーンの分岐(ハードフォーク)によって無効化し、新しいイーサリアムとしてリスタートすることを決断しました。
しかし、非中央集権であるはずのブロックチェーンがイーサリアム財団という特定の組織によってコントロールされた対応に不信感を抱く人が多数出ました。
その結果、コミュニティは分断され、分岐前の旧イーサリアムと分岐後の新イーサリアム(現行のイーサリアム)に分かれてしまったのです。
旧イーサリアムは現在もイーサリアムクラシック(ETC)という名前で市場に存在しています。
イーサリアム(ETH)の今後の展望
イーサリアムは、スマートコントラクトという画期的な仕組みを最初に作ったことで、様々な分散型アプリケーションの誕生に貢献し、今日でも絶大な人気を誇っています。
アップグレードを通じて、イーサリアムのブロックチェーンはより便利により快適になっています。
また、スケーラビリティ問題を解決するためのレイヤー2ソリューションも多数登場してきており、ETH 2.0も開発中です。
ETH 2.0への完全移行は2022年以降とまだまだ先となりますが、それが完了すれば、イーサリアムのプラットフォームはさらに強化され、それに伴い価格が上昇していくことは十分考えられるでしょう。