ステラルーメン(XLM)の概要
リップル社の創業者の一人が開発した暗号資産
ステラルーメンは、超低コストかつ超高速な個人向けの送金プラットフォーム「Stellar(ステラ)」とネイティブ通貨「XLM(ルーメン)」を擁するプロジェクトです。
2011年当時、世界最大のビットコイン取引所だったマウントゴックスの創業者であり、リップル社の創業者の一人でもあるジェド・マケーレブ氏はマウントゴックス売却後、リップル社で開発を続けていましたが、内部の体制等に不満を覚えて、2014年にリップル社を辞めます。
同年、彼は非営利組織であるステラ開発財団(Stellar Development Foundation:SDF)を設立し、リップルの技術をベースにしたStellar(ステラ)というオープンソースのプロトコルを開発しました。
ステラのコンセンサスアルゴリズムには当初リップルと同じものが使われていましたが、2015/4のアップグレードにて、スタンフォード大学のDavid Mazières教授によって作成された新しいコンセンサスアルゴリズムであるStellar Consensus Protocol(SCP)に置き換えられました。
ジェド・マケーレブ氏(出典:ステラルーメン公式サイト)
個人間の送金問題の解決を目指す
ステラ開発財団は銀行口座を持てない貧困層に対して、安価な決済・送金サービスを提供することを目指しています。
こういった国々では外国に出稼ぎに行く労働者が多く、母国の家族に送金する際にステラを活用してもらうことを想定しています。
つまり、ステラルーメンは個人間の送金問題を解決しようとしています。
そのため、主な提携先はAmerican Express等の送金会社となります。
リップルは金融機関向けの送金問題の解決を目指しているため、ステラルーメンとはターゲットが異なります。
高速・低料金の送金ネットワークを構築する目的は同じですが、誰向けなのかという点でリップルと住み分けを行っているんですね。
ステラルーメン(XLM)早見表
名称 | ステラルーメン(Stellar Lumens) |
---|---|
ティッカーシンボル | XLM |
通貨の最小単位 | 1 stroop = 0.0000001 XLM |
メインネット開始年月 | 2014/7 |
主な用途 | 個人間送金のブリッジ通貨 |
考案者 | ジェド・マケーレブ氏(リップル社の創業者の一人) ※かの有名なビットコイン取引所「Mt.Gox」創業者でもある |
発行者 | ステラ開発財団(SDF) |
発行方法 | 個別送付 |
発行上限 | 1兆XLM(最初に1,000億XLM発行後、年1%ずつ新規発行する計画だったが、途中で新規発行を中止した上に半分量を焼却) |
トランザクション速度 | 1,000 TPS(1秒あたりのトランザクション数) ※VISAは1,700 TPS |
コンセンサスアルゴリズム | Stellar Consensus Protocol(SCP) |
ファイナリティの種類 | 決定論的ファイナリティ(決済が確定し、覆されることがない) |
残高管理 | アカウントモデル |
Webサイト | https://www.stellar.org/ |
ホワイトペーパー | https://www.stellar.org/papers/fast-and-secure-global-payments-with-stellar https://www.stellar.org/papers/stellar-consensus-protocol |
エクスプローラー | https://stellar.expert/explorer/public |
ステラルーメン(XLM)の特徴
Stellarのベースはリップル
Jed McCaleb氏はリップル創業者ということもあり、Stellarはリップルの技術がベースとなっています。
そのため、リップルと似た点が多くなっています。
超高速・超低コストで送金可能
個人間の送金問題を解決することが目的のため、リップル同様、送金速度は数秒と非常に早く、送金手数料も1円未満に抑えられます。
そのため、資産というより通貨の用途に向いています。
XLMはブリッジ通貨
リップル同様、ステラではネイティブ通貨であるルーメン(XLM)を仲介させて送金します。
つまり、ドル→XLM→ステラで送金→XLM→円のように、異なる通貨の橋渡しを行います。そのため、ブリッジ通貨と呼ばれています。
ステラでは、送金者がある通貨を送金し、受領者は別の通貨で受け取ることが可能です。つまり、1回のトランザクションで送金と交換を行えます。
お互いの望む通貨で送受信できる点が特徴です。
イスラム展開で重要となるシャリア適合認証を取得
ステラ開発財団はイスラム地域において投機的な取引を行わない証明であるシャリア適合認証を取得しています。
イスラム地域では宗教上の理由で、投機的取引は禁止されています。
従って、イスラム地域に広めるにあたって、シャリア適合認証を取得していることは非常に重要となります。
シャリア適合認証を取得している点はリップルとは大きく異なります。
参考:https://www.stellar.org/blog/stellar-receives-sharia-compliance-certification-transfers-tokenization
XLMの発行計画は途中で大きく変更
ステラ開発財団はステラネットワークを稼働した2014年に1,000億XLMを発行し、上限を1兆XLMとして、以降は毎年1%ずつ新規発行する計画”でした”。
毎年1%ずつ新規発行する狙いは、発行量を段階的に増やしていくことで価格の高騰を防ぎ、価値を安定化させるためです。
当初5年間は計画通り実行されたものの、2019/10のコミュニティ投票によってこのインフレメカニズムは終了しました。
さらに、翌11月には総発行量の約50%にあたる550億XLMを焼却(バーン)しました。バーンとは市場から存在を消滅させる行為のことです。
バーンによって約500億XLMが残存することになり、これ以上増える予定はありません。
500億XLMのうち、300億XLMはステラ開発財団が保持しているため、市場に出回っている量は200億XLMとなります。
ステラ開発財団が保有している300億XLMは、運営資金として市場に販売していくことをSDF Mandateにて公表しています。
XLMを販売して得た資金は今後の開発、エコシステム拡大、マーケティング等のために使用されます。どの用途にいくら使ったかが全て明記されており、透明性を高めています。
この販売を通じて、市場への供給量が増えることになります。ただし、市場に流通する上限は500億XLMです。
トークンの発行量や経緯はリップルとは大きく異なります。
ステラルーメンとリップルの価格は連動しやすい
ステラルーメンはリップルの技術がベースとなっており、送金という目的も同じなため、価格は連動しやすい傾向があります。
上がステラルーメン、下がリップルのチャートです。瓜二つであることがよく分かります。
時価総額はリップルの方が大きいため、リップルの値動きには注意しておくとよいでしょう。
企業との提携
ステラ開発財団はフランス大手送金会社のTEMPOやナイジェリアの電子決済会社のCowrieなどと提携しています。
また、グローバルIT企業のIBMとも提携し、国際送金ネットワークであるIBM Blockchain World Wireを共同開発しているようです(ただし、プロジェクトは立ち消えた可能性あり)。
独自アセットの発行が可能
リップル同様、ステラでも独自の資産(アセット)を発行できます。発行されたアセットはステラネットワーク上で使うことが可能です。
また、米ドルや円といった法定通貨のトークン(ステーブルコインと呼ばれ、1トークンが1法定通貨に対応)の作成も可能です。
Stellar Consensus Protocol(SCP)
ステラのコンセンサスアルゴリズムはStellar Consensus Protocol(SCP)と呼ばれており、リップルのアルゴリズムを改良して作られました。
リップル同様、取引の承認はバリデーターと呼ばれるサーバーの合意形成によって行われますが、リップルの場合、80%以上の合意が必要なのに対して、ステラの場合は2/3の合意で承認されるようになっています。
また、SCPでは、リップル社のような中央機関によって選択されたユニークノードリスト(信頼できるバリデーターのリストのことで、リップルの場合はリップル社が認定)はありません。
ステラの各バリデーターは、信頼するバリデーターを自分で決定し、中央機関に依存することなく、クォーラムスライスと呼ばれる信頼できるバリデーターのリストを作成できます。
各バリデーターのクォーラムスライスは重なり合ってネットワーク全体のコンセンサスを形成します。
既に参加しているバリデーターのクォーラムスライスに追加されると、そのサーバーは新しいバリデーターになり、コンセンサスプロセスに参加できるようになります。
そのため、リップルよりもネットワークの分散性が高まりやすいといえます。
分散型取引所(DEX)機能
ステラ上で作成されたアセット(トークン)は、ステラネットワーク内の他のトークンと交換可能であり、ステラプロトコルが買い手と売り手を繋げます。
1回の操作で買値または売値をネットワークに送信でき、仲介者なしに数秒ごとに取引が自動的に行われます。
つまり、分散型取引所(Decentralized EXchange:DEX)がStellar Ledgerに組み込まれているのです。
たとえば、NGNトークンとXLMのペアの注文は次のようになります。
ステラ上のオーダーブック(出典:ステラルーメン公式サイト)
上図の通り、ステラは取引プラットフォームのように振る舞います。未決済の注文、取引履歴、市場の深さを表示でき、これらはステラアカウントに結びついています。
自動マーケットメーカー(AMM)機能
2021/11/3のアップグレードで、自動マーケットメーカー(AMM)機能がStellarに追加されました。
AMMとは、自動化されたアルゴリズム取引によって市場に流動性を提供するプロトコルのことです。
AMMでは、あらかじめ設定された数式に基づいてトークンの価格が決定され、上記のようなオーダーブックを使用する代わりに、アルゴリズムによって自動で取引が行われます。
ステラでは、これまで最も一般的なAMMの実装であるスマートコントラクトを必要とせずに、また他のネットワークで必要とされる高いトランザクション手数料(ガス代)なしに、流動性プールを作成できます。
エコシステム開発者が作成したサービス経由で流動性プールに入金できるようになり、流動性の改善に貢献できます。
AMMを活用した決済では、ステラの分散型取引所(上記のオーダーブック)で利用できるレートよりも良いレートであれば、流動性プールを利用します。
流動性プールを利用した取引では、ステラで利用可能な最高のレートが得られ、決済者と流動性プロバイダーの双方にメリットがあります。
流動性プールはトランザクション時に0.3%の手数料を取って、それを流動性プロバイダーに分配します。
参考:https://www.stellar.org/press-releases/automated-market-maker-functionality-is-live-on-stellar
ステラルーメン(XLM)の課題
バリデーターの数が少ない
リップル同様、取引の承認に経済的インセンティブが働かないため、バリデーターの数が非常に少ないという問題があります。
2021/11現在、バリデーターは53台しかありません。リップルの半分以下です。
バリデーター数(出典:https://stellarbeat.io/)
数が少なければ、それだけネットワークの安定性に懸念が残ります。
リップルに比べればバリデーターは増やしやすい仕組みになっているため、バリデーターを増やしてさらなる分散化を図り、ネットワークの安定性とセキュリティを強化していくことが求められています。
ステラ開発財団の収入源がXLMの売却に依存
リップル同様、ステラ開発財団の主な収益源は保有しているXLMの売却となっています。
非営利組織で資金の用途を明確にしているとはいえ、これを良く思わない投資家がいることは念頭においたほうがいいでしょう。
中央集権的な体制
ステラ開発財団がStellarネットワークを開発、運営しており、中央集権的な体制となっています。
中央集権型の組織の場合、意思決定が早かったり、責任元が明確になるので企業からの信用は得やすかったりしますが、暗号資産投資家からは敬遠されがちです。
暗号資産投資家は中央集権を嫌う傾向があるためです。
SWIFTやリップルとの競争
従来の法定通貨の国際送金には、国際銀行間通信協会(SWIFT)の提供するシステムを介して行われるのが一般的です。
つまり、リップル同様、SWIFTはステラ開発財団にとっても強力なライバルです。
また、SWIFTだけでなくリップル社もライバルと言えるでしょう。
個人向けか金融機関向けかの違いはあれど仕組みや目的は似ているため、徐々にターゲットは被ってくるはずです。
時価総額、知名度ともにリップル社を下回っているため、独自性をいかに作っていくかが重要になります。
ステラルーメン(XLM)の今後の展望
Stellarはリップルをベースに作られているだけあって、リップル同様、超高速・低コストで送金できます。
個人向け送金市場を狙うべく、提携先は順調に増えていますし、シャリア適合認証取得によるイスラム圏への進出も特筆すべき点です。
プラットフォーム面をみてもAMMなど流動性の改善にも力を入れています。
しかし、その一方でステラ開発財団という一組織の管理するネットワークのため、中央集権を嫌う一部の暗号資産投資家からはあまりよく思われていません。
また、リップルとの類似性のために、Why Stellar?への明確で分かりやすいメッセージ性が求められます。
XLMの価格上昇のためには、提携先拡大やプラットフォーム改善もさることながら、マーケティングに注力することが重要になるでしょう。